京都地方裁判所 昭和56年(ワ)1697号 判決 1983年6月08日
原告
吉田順計
被告
京都市
主文
一 被告は原告に対し金七〇万五〇〇〇円及びうち金六四万円に対する昭和五六年一月二五日から、うち金六万五〇〇〇円に対する昭和五八年六月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを三分しその二を被告の負担としその一を原告の負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告に対し金二二〇万円及びこれに対する昭和五六年一月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
原告は、昭和五六年一月二五日午後三時ころ原告所有の普通乗用車(英国製モーリス一〇〇〇CC。石五六―四五七〇。)を運転して府道京都守口線を東進中京都市伏見区横大路通洛水高校前路上に差し掛かつた際、被告からの建設請負業者岡野組による下水道工事後のコンクリート舗装が復旧していなかつたため突出していたマンホールの蓋に原告車のエンジン部分を接触させ、右接触により同車に、エンジンが欠け、足回りに歪み、センターのずれ、ボデイーに曲がり、塗装にひび割れ等の損傷が生じ、同時に原告は通院治療一四日間を要する頸部挫傷、左背部挫傷の傷害を負つた。
2 被告の責任
右道路が前記のような状況のまま放置されていたのはその管理に瑕疵があつたものというべく右事故はこのような道路管理の瑕疵によつて生じたものであり、被告は右道路の管理費用負担者として国家賠償法二条一項、三条により右事故によつて生じた原告の損害を賠償すべき責任がある。
3 損害
(一) 自動車の修理費 二〇〇万円
(二) 傷害による慰謝料 二〇万円
(三) 弁護士費用 二〇万円
原告は、右損害に対し岡野組から二〇万円を受領しているのでこれを控除する。
4 よつて、原告は被告に対し右損害金二二〇万円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五六年一月二五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する被告の認否及び主張
1(一) 請求原因1の事実のうち、岡野組が被告より京都市伏見区横大路通洛水高校前の下水道工事を請負い原告主張の事故日の数日前その工事を行つたことを認めるが、その余は知らない。
(二) 同2の事実を否認する。
(三) 同3の事実のうち、(一)を否認する。(二)は知らない。(三)を認める。(四)は知らない。
2(一) 岡野組は昭和五六年一月一九、二〇日の両日に亘り原告主張のマンホール付近で下水道管を布設したことはあるが同月二一日にはアスフアルトで仮復旧しているから原告主張のような事故は考えられない。
(二) (過失相殺)原告は、事故現場を通過するに際して前方を確認することを怠つた過失があるから賠償責任及びその額を定めるについて斟酌されるべきである。
三 抗弁に対する認否
二2(二)項の抗弁事実を否認する。
第三証拠〔略〕
理由
一(事故発生と責任)
京都市伏見区横大路通洛水高校前路上において岡野組が被告市より下水道工事を請負い、原告主張の事故日前にその工事をしていたことは当事者間に争いがなく、この事実と証人上野昌次の証言及び原告本人尋問の結果によれば次の事実を認めることができる。
岡野組作業員は右下水道工事をした後本件事故発生日である昭和五六年一月二五日頃には右高校前路上にあるマンホール周辺付近の舗装を剥したまま仮舗装を十分していなかつたのでマンホール西側(原告車の進行方向に向かつて手前)に幅約車二台分、長さ約一メートルの範囲で深さ約一〇ないし一五センチメートルのくぼみが生じていた。そのため車道にマンホールが約一〇ないし一五センチメートル浮き上り地上に突出した状況にあつた。右マンホールは交通の比較的頻繁な車道の中央部に位置していたのにかかわらず本件事故発生時右マンホール周辺にくぼみがあることを自動車運転手に知らせる表示や安全柵等の設置はされていなかつた。原告車は東進して右マンホールで底部を接触させて損傷した。
以上の事実を認めることができる。
右事実によると本件通路は通常有すべき安全性を欠いていたということができるから右道路の管理に瑕疵があつたものというべく、本件事故は右道路の管理の瑕疵によつて生じたものであり、弁論の全趣旨によると、被告は右道路の管理費用負担者と認められるから、被告は国家賠償法二条一項、三条により右事故によつて生じた損害を賠償すべき責任がある。
二 損害
1 原告車の修理費 証人鈴木裕治、同鈴木敬一の各証言及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨により成立を認める甲第三号証、同第五ないし第七号証、同第八号証の一ないし一二、本件事故後撮影の原告車両の写真であることが認められる検甲第一ないし第六六号証及び証人鈴木裕治、同鈴木敬一の各証言、原告本人尋問の結果を総合すれば、岡野組が修理業者としてヤナセとトヨタを紹介したが修理を引受けて貰えず原告が自ら探した「スポーツカー関西」で同車を修理したこと、同修理業者では破損部位のみを修理することは困難であり修理費として二〇〇万から五〇〇万円までの間で五〇万円刻みの各ランクがあり原告は最低の二〇〇万円で修理を依頼しこれを負担したことが認められる。右事実によれば、本件事故と相当因果関係ある修理費としては二〇〇万円とするのが相当である。
2 傷害による慰謝料 原告本人尋問の結果により成立を認める甲第二号証及び右本人尋問の結果によれば、原告は事故後約一〇日ほどたつた頃痛みに耐えられず京都市右京区西京極東大丸町一八―一山村診療所で受診して頸部左背部挫傷の診断を受け昭和五六年二月六日から同年六月五日までの間(実治療日数一四日)通院治療したことが認められ、右傷害の内容程度、通院期間その他一切の事情を斟酌すると原告の傷害に関する慰謝料としては一〇万円が相当である。
3 過失相殺 証人鈴木敬一の証言によると本件事故発生日に同一道路状況下で他の自動車には原告車破損のような事故が発生していないことが認められ、原告本人尋問の結果により成立を認める甲第一〇号証の一、二、証人岡本亮、同上野昌次の各証言及び原告本人尋問の結果を総合すれば、原告車の車体の高さが平均より低くエンジンが裸のまま露出しており鋳物製で破損し易くシヤーシ骨(シヤーシを保護する管)もなかつたためシヨツクを与えると歪みやひび割れが生じやすい状態にあり原告自身も同車のこのような特殊性を知悉していたこと、原告車は時速約四〇キロメートルで先行車と約一〇メートルの車間距離を置いて運転していたことが認められ、これらの事実と前記マンホール西側のくぼみが幅約車二台分、長さ約一メートルであつたことを合せ考えると、原告は常に前方を注意するのは元より進路前方に障害物があるときは直ちに停止または回避しうる速度と方法で進行して障害物との接触を避けるべき注意義務があるのにこれを怠つた過失があるというべく、殊に原告車のような特殊な車では通常の車と比較して障害となる危険物が多いからより高い注意義務があり、従つて原告の賠償額の算定にあたつては以上の諸事情を総合考慮し原告の過失割合を六割として過失相殺をするのが相当である。そうすると、前記修理費と慰謝料との合計額二一〇万円を右割合で按分すると原告の請求しうべき額は八四万円となる。
4 損益相殺 原告が岡野組より本件事故による損害金として二〇万円を受領したことは当事者間に争いがないから、前記八四万円よりこれを控除すると六四万円となる。
5 弁護士費用 原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告が弁護士に本訴の追行を委任したことが認められ、本件事案の難易、審理経過、認容額等を総合考慮すると本件事故と相当因果関係がある損害として被告に請求しうべき額は六万五〇〇〇円とするのが相当である。
三 よつて、原告の本訴請求のうち、七〇万五〇〇〇円とうち弁護士費用を除いた六四万円に対する損害発生の日である昭和五六年一月二五日から、うち弁護士費六万五〇〇〇円に対する本件判決言渡の日の翌日である昭和五八年六月九日から各支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 吉田秀文)